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X線に関する基礎知識
X線と聞くと怖いといった印象があるかもしれません。しかし、X線は普段の生活の中で意識されることはありませんが、非常に身近な存在です。X線の特徴や検査に使用される仕組みの基礎をご紹介します。
多種多様な場面で利用される「X線」
皆様は「X線」について、どのような印象を持たれているでしょうか?
病院でのレントゲン撮影や空港の手荷物検査などの物質内部を透視するシステムについて、生活の中で触れる場面はありますが、そこで利用されているX線の特徴や正体について説明を受けることは少ないかと思われます。
しかしながら、X線には物質を透過すること以外にも、工業製品の寸法測定や材質の判別、構成元素の分析、結晶構造の解析など多種多様な利用用途があり、
現代の産業分野や研究開発シーンにおいて不可欠な存在となっています。
X線の正体
X線とは、可視光と同じく特定の波長を持つ電磁波(電場と磁場の変化を伝播する物理現象)の一種です。
X線は可視光と異なり人間の目で捉えることはできませんが、波長が0.01nm~10nm(水素原子の半径は0.1nm)
と短く、光子自体が持つエネルギーが大きいため、電離作用や物質の透過といった性質を持っています。
X線の特性(電離作用)
X線が持つ性質のひとつである電離作用とはX線が物質中を通過する際、物質を構成している原子の軌道電子を
励起させて、安定状態の原子から電子を引き剥がす働きを指します。電離が起こると原子は電子対を失って正の電荷を帯び、化学反応を起こしやすい不安定な状態に変化します。そのため、X線や他の電離作用を持つ放射線の取り扱いについては「電離放射線障害防止規則」といった法令により安全基準が定められています。このような特性は一見、危険な印象を与えますが、産業・食品分野では殺菌効果を利用した電子線滅菌に有効に用いられています。
X線の特性(透過性)
電離作用と並ぶX線の特性として、物質への透過性があります。
可視光でもペットボトル入りの水などは透過可能ですが、金属等の密度の高い物質では光子の持つエネルギー(振動)が吸収され透過までは至りません。
X線は可視光に比べで波長が短く、原子間の隙間を干渉せずに通り抜けるため物質への透過性に優れてます。
ただし、物質に入射したX線すべてが透過することはなく、物質を構成する元素と厚みに依存して吸収されます。
この際、単一の材質・厚みの物質でない限りX線の透過量には差異があり、陰影が発生
します。この陰影の輝度の分布により物体の内部構造を読み取る検査方法を「X線透過検査」と呼び、一般的な医療診断や工業検査手法として確立しています。
X線と物質の相互作用
X線で物質を検査する方法は透過に限らず、照射した物質との相互作用を利用した検査・解析方法があります。
【散乱】
結晶性物質にX線を照射すると、物質原子の電子と干渉、散乱を起こし散乱X線が生じます。散乱X線は単結晶の配列構造により特定方向へ互いに強め合う干渉を起こすため、この方向(回析ピーク)の位置を測定することにより、結晶構造を測定することができます。この原理を利用した「X線回析法」により半導体の原料であるシリコンウェハーの結晶方位測定やタンパク質をはじめとした生体内高分子の立体構造の測定が行われています。
【蛍光】
「蛍光X線分析法」は物質にX線を照射することで発生する2次的なX線を読み取り物質の構成元素を分析する手法です。
この2次的なX線は特性X線と呼ばれるもので、入射した一次X線のエネルギーにより物質中の原子が電子を放出し不安定な状態となった後、再度安定状態に戻る際に放出され、発生元の元素により固有の波長を示します。そのため、特性X線の強度が強ければ物質中に発生元の元素が多く含まれていることが分かり構成元素の種類や割合を定量分析することが可能になります。
X線の危険性
医療診断や産業検査での一般的な利用範囲において、X線は人体の健康に影響を及ぼすことはありません。
ただし、何らかの原因で一度に大量のX線に暴露するとDNAに損傷を与え、
細胞の複製や体内での化合物の合成といった代謝機能に悪影響を及ぼす恐れがあります。
このような危険性がある一方、X線には残留性が無い(連続的な電離を引き起こさない)特徴があるため、意図的に高エネルギーのX線をがんの病巣に照射し治療を行う「放射線治療」も広く利用されています。
様々な分野に応用可能なX線は便利である反面、危険性も存在します。そのため法令を遵守し適切な管理の上で安全に利用していくことが重要です。
X線透過検査とは
放射線透過検査(RT)は工業分野で物体内部の測定に広く利用されてる検査手法です。
使用する放射線(線源)は小型、電源不要で携帯性のよいγ線と、鮮鋭度の高いX線があり、検査の目的や対象物の性質によって使い分けられています。放射線透過検査は超音波探傷検査(UT)
と比較すると取り扱いに注意が必要で装置が高価といった特徴がありますが、物体内部の欠陥位置や大きさを視覚的に表示することができ、複雑形状の対象でも検査が可能です。
X線透過検査の用途
産業分野における透過検査の主要用途としては、製品(鋳物、溶接、完成品等)の内部欠陥検査や異物検査があります。内部欠陥検査では、鋳造製品に発生する割れや巣、樹脂成型品の成型不良、半導体部品のワイヤ・ボンディング等の
検査に用いられ、透過検査の応用性を活かした幅広い活用がされています。また、製造業以外にも配管や橋梁といった設備保全に透過検査は用いられています。
X線検査装置の構成
検査装置はX線発生器、X線検出器を照射室に格納し、外部操作によってX線透視画像を撮影する構成が基本となります。照射室は検査員の安全を守る目的で設置され、検査時のインターロック(安全条件が揃わなければ装置が作動しない仕組み)として機能します。照射室内部のレイアウトは検査対象物によって様々ですが、X線を透過させる関係上
X線発生器と検出器で検査対象物を挟み込む形式となっています。
検査対象物が装置に対して大型で複雑形状の場合、一度の撮影で正確な欠陥検出をすることが難しいため、照射室内で検査対象をハンドリングする移動テーブルや撮影データのソフトウェア処理によって検査の効率化を行います。
また、屋外に存在する大型の検査対象に対しては検査員が現場で直接撮影するポータブル方式の装置も存在します。
こういった照射室を設けない検査の場合は、検査員がX線の影響が及ばない距離まで離れて操作を行います。
X線インライン検査とオフライン検査
製造の現場において、生産ライン上に検査装置を組み込む方式を「インライン検査」、生産ライン外で検査を行う方式を「オフライン検査」と呼びます。インラインのX線検査は基本的に全数・自動検査を前提としており、装置を検査対象や製造ラインに対して専用化することで時間効率を高める方式であると言えます。一方、オフラインのX線検査は少数・手動検査を前提に、多品種や複雑な撮影などフレキシブルな検査が必要な場合に適しています。
検査対象に合わせたスペック選定
透過検査に必要なX線のエネルギー(透過力)は対象の素材、厚みによって変化します。
これは、原子の密度が高いほどX線の吸収を促し、透過を阻害する働きがあるためです。例として、比重約11.4の高密度素材である鉛はX線をほとんど透過しないことから、照射室等の遮へい材として利用されています。
X線発生器の原理
X線発生器の内部には、管球と呼ばれる真空管が格納されています。X線はフィラメント(負極)から飛び出した電子が管球内でターゲット(陽極)の金属原子の電界によって急減速する際、持っていたエネルギーの一部を電磁波(制動X線)として放出することで発生します。この際のX線発生効率はエネルギーに対して約1%程度で、残りの大部分は熱として放出されます。
管電圧と管電流
X線管球から発生するX線は強度(光子の量、明るさ)とエネルギー(波長)という2つの要素でコントロールします。
X線は0.001~10nmの幅広い波長域を持つ電磁波で、0.1nm以下の波長が短くエネルギーの高い、透過力に優れた物を硬X線、エネルギーの低い物を軟X線といいます。X線管球から発生するX線のエネルギー(波長)は管電圧(kV)を増減することによって任意の透過力を発揮するように調整することが出来ます。また、もう一つの要素である管電流はX線光子の量をコントロールし、管電流が多いほど明るくコントラストの高い透過画像が得られます。
実効焦点
実効焦点とは、ターゲット表面からX線ビームが発生する面積を指し、焦点サイズが小さいほどビームが収束し輪郭が鮮明で解像度の高い像が得られます。しかし、焦点サイズに反比例して照射時間あたりのX線光子の数は少なくなり、透過像は暗くなります。実効焦点が大きい場合、鮮明度は低くなりますが、同じ時間でより明るい透過像が得られます。
このように焦点サイズと出力はトレードオフの関係にあり、X線管球を選定する際は検査対象物の透過性と必要な画質に対応した最大管電圧(透過力)、及び実効焦点サイズ(鮮明度)の検討が必要になります。
拡大撮影
X線管球から発生したX線ビームは円錐状に広がって進む特徴があります。
この性質を利用し、焦点~被写体~検出器の距離を調整することで対象を拡大した撮像が可能です。
拡大撮影は実効焦点が小さく画質に優れたX線管球に向いており、実装基板の検査をはじめとしたマイクロオーダーの欠陥検出や高精度な寸法測定に利用されています。
X線検出器の種類
X線検出器は物体を透過したX線の減衰を可視化、画像化する装置で、X線フィルムやFPD(フラットパネルディテクタ)等が当てはまります。検出器は検査の高速化や画質の向上といったニーズへの対応を目的として多種多様な製品が
開発されてきました。
透過検査の黎明期はフィルムや蛍光板を利用するアナログ撮影での検査が行われていましたが、撮影の段取りや現像工程に時間を要する課題があり、スキャナや透過像のリアルタイム表示が可能なI.I.(イメージインテンシファイア)が開発されました。
現在では、X線をデジタル信号へ変換するセンサを搭載したFPD(フラットパネルディテクタ)やラインセンサのようなデジタル撮影が可能な製品が登場し、詳細な寸法測定や欠陥自動検出といった検査の更なる効率化が進んでいます。
また、従来のアナログ撮影も規格検査での需要や電源不要などデジタルにはない優位性があり、検査ニーズによる使い分けが行われています。
X線検出器のスペック(階調)
デジタル画像の色表現の繊細さを表す数値で階調という指標があります。透過画像の撮影において、階調の豊かな
検出器では色の濃淡を細かく表現し、一度の撮影(透過エネルギー)で透過性の異なる物質を観察することが出来ます。
X線撮影 アナログ撮影とデジタル撮影
現在、品質検査におけるX線撮影方法は、フィルムを用いるアナログ撮影とセンサ、スキャナを用いたデジタル撮影に大別されます。下記表はフィルム(アナログ撮影)とFPD(デジタル撮影)各方式の特徴について比較しています。
フィルム(アナログ)の特徴として画像の解像度が高いことや改ざんの恐れが少ないことから規格検査として利用されることが挙げられます。
しかし、フィルムの感度は一枚につき固定であるため、検査対象物の材質や撮影箇所に合わせてフィルムを交換する必要があり、撮影画像の確認にも現像作業が必要となります。
FPD(デジタル)はX線を電気信号に変換できるセンサを平面上に並べた装置で、ビデオカメラのようにリアルタイムに画像データが得られ、3次元測定やCT(断層)画像にも再構成することが出来ます。また、センサを利用する特徴として
感度が高く階調が豊かであるため、1台で多種多様な検査対象に対し設定変更のみで対応可能です。
FPDとラインセンサの違い
デジタル撮影を利用した品質検査では主にFPD、ラインセンサの2種類の検出器が使用されています。
どちらもX線検出に素子を利用している点は同じですが、素子の並べ方が異なります。
FPDの素子配置は平面状で、高い寸法精度と短い撮影時間が特徴です。ラインセンサはその名の通りセンサを直線状に配置しており、比較的撮影に時間が必要ですが、ノイズの原因となる散乱線の影響を最小限に抑えた撮影が可能です。
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